国際学会と国内学会の違い
国際学会は「言語・文化・法制度のギャップをいかに埋めるか」が成否を分けます。国内学会の延長線上で準備を進めると、必ず次の5点でつまずいてしまいます。以下、それぞれのポイントを手厚く解説いたします。
1. 言語・文化・プロトコル
国際学会では英語をはじめとする多言語対応が必須です。
- 英語司会:アジェンダ進行をスムーズに行うため、英語ネイティブまたは高い英語運用能力を持つ司会者を選定します。
- 同時通訳ブース:ブース位置は会場の前方かつ声がこもらない配置を確保し、参加者の視界や聴覚環境に配慮します。
- 要人動線:VIP講演者や来賓の方々が迷わず移動できるよう、専用の通路と案内スタッフを配置します。
「日本のおもてなし」と「国際基準」は両立可能ですが、日本式だけでは参加者の期待に応えられません。国際標準のガイドライン(ISOやUFIなど)を事前に確認し、抜け漏れなく準備を行いましょう。
2. 招聘・ビザ・税務
- 招聘状(Letter of Invitation):早めに発行し、講演者の在籍先や肩書き、滞在日程を正確に記載します。
- ビザ発給遅延対策:大使館や領事館の審査状況を常にモニタリングし、遅延が想定される場合は代替案(オンライン登壇)も併せて検討します。
- 税務手続き:謝金支払い時の源泉徴収漏れを防ぐため、租税条約の有無を確認し、必要書類を事前に会計担当へ共有します。
情報処理学会の手引きなど、国内外の学協会ガイドラインを活用し、招聘→ビザ→支払いまでのワークフローを一元管理すると安心です。
3. 多国籍参加者案内(CX設計)
異なる文化背景や宗教を持つ参加者に配慮した参加者体験(CX: Customer Experience)が求められます。
- 食事対応:ベジタリアン、ヴィーガン、ハラール、アレルギー表示付きメニューを用意し、参加登録時に食事希望をヒアリングします。
- バリアフリー:会場内の通路幅、トイレ位置、車椅子アクセスなどを事前に確認し、点字サインや音声案内も手配します。
- 時差考慮タイムテーブル:海外オンライン参加者の多い時間帯をリサーチし、セッション開始時刻を調整します。
これらを踏まえ、モバイルアプリやWebサイトに分かりやすい案内ページを設け、トラブル発生時の問い合わせ窓口を英語対応可能にしておくと安心です。
4. 通訳・翻訳手配
- RSI(Remote Simultaneous Interpretation):スペースや人件費を削減できますが、ネットワークの二重化(冗長化)は必須です。
- 機材と環境:遮音性能の高い通訳ブース、防音ヘッドセット、高感度マイクなど、国際規格に準拠した機材を手配します。
- 一括依頼のメリット:PCOへ依頼することで、通訳・翻訳・機材設営をワンストップで管理できます。
5. サステナブル運営
- ISO 20121取得:イベントサステナビリティマネジメントの認証を活用します。
- ペーパーレス化・再生紙バッジ:プログラム冊子をPDF化し、バッジには再生素材を採用します。
- カーボンオフセット:CO₂排出量を算出し、オフセットプロジェクトへ投資します。
オンライン・ハイブリッド時代の国際学会運営
パンデミック以降、会期と集客上限の関係は大きく変化しました。ハイブリッド開催やオンデマンド配信の活用で、新たな収益モデルやCX向上を実現できます。
配信プラットフォームの選定
- Zoom/Teams:コストは抑えられますが、スポンサー露出が制限されがちです。
- MICE Virtual(コングレ提供):参加登録→決済→ePoster→セッション視聴を一元管理できます。
RSI/自動字幕導入
- 遠隔同時通訳(RSI):人件費とスペースを削減できますが、ネットワーク冗長化と事前リハーサルが必須です。
- 自動字幕:AI字幕で多言語対応を補助。重要セッションは人力チェックも併用しましょう。
ハイブリッド時代の収益モデル
- Tier設計:ライブ配信無料、オンデマンド有料など複数層を用意してリスク分散します。
- スポンサー連携:バーチャルブースやデジタルバナーなどオンラインならではの広告機会を増やします。
以上のポイントを押さえ、言語・文化・テクノロジー・サステナビリティを網羅した準備を進めることで、国際学会運営は成功に近づきます。国内外の研究者・企業・行政の架け橋となる学術交流の場を創り上げてください。