国際学会は「言語・文化・法制度のギャップをいかに埋めるか」が成否を分けます。国内学会の延長線上で準備を進めると、必ず次の5点でつまずいてしまいます。以下、それぞれのポイントを手厚く解説いたします。
先の比較表で大枠を掴んだところで、ここからはそれぞれの違いをより具体的に、7つの項目に分けて詳しく解説していきます。ご自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。
最も明確で大きな違いは、学会で使用される言語です。国内学会では、発表や質疑応答、参加者同士の交流など、ほとんどの場面で日本語が使用されます。そのため、言語の壁を感じることなく、研究内容の議論に集中できるのが大きな利点です。特に初めて学会発表を経験する学生にとっては、リラックスして臨める環境と言えるでしょう。
一方、国際学会の公用語は、原則として英語です。発表スライドや論文はもちろん、口頭でのプレゼンテーションから質疑応答まで、すべて英語で行う必要があります。専門的な研究内容を正確に伝える英語力だけでなく、様々な国のアクセントの英語を聞き取るリスニング能力も求められるため、参加のハードルは高くなります。
参加者の構成も大きく異なります。国内学会は、その名の通り日本国内の研究者や学生が中心です。そのため、参加者の専門分野や文化的背景が比較的均質で、国内の特定の研究コミュニティ内での繋がりを深める場という側面が強くなります。
対照的に国際学会には、世界中の国や地域から研究者が集まります。多国籍の参加者が集うことで、多様な視点や文化、異なるアプローチに触れることができます。予期せぬ角度からの質問やフィードバックは、自身の研究を客観的に見つめ直し、新たな発想を得るための大きな刺激となるでしょう。学会の規模としても、国際学会の方が参加者数が多く、大規模になる傾向があります。
学会に参加するための費用も重要な比較ポイントです。国内学会は日本国内で開催されるため、移動や宿泊にかかる費用を比較的抑えることができます。参加登録費も国際学会に比べると安価な場合が多く、学生でも参加しやすいのがメリットです。
一方、国際学会は世界各地の都市で開催されるため、参加するには高額な渡航費や滞在費が必要になります。参加登録費自体も高額なことが多く、総額では数十万円にのぼることも珍しくありません。そのため、国際学会への参加には、指導教官との相談や、大学からの補助金、研究費の獲得といった事前の資金計画が不可欠となります。
学会で発表するまでのハードルにも違いがあります。国内学会の中には、発表申し込みの際に提出する抄録(アブストラクト)に対する審査が比較的緩やかであったり、査読がなかったりする場合も少なくありません。そのため、若手の研究者や学生が研究成果を発表し、経験を積むための最初のステップとして適しています。
これに対し、権威のある国際学会では、発表の可否を決めるために「査読」という厳格な審査プロセスが設けられています。複数の専門家が論文を読み、研究の新規性、有効性、信頼性などを厳しく評価します。この査読を通過して国際学会で発表することは、自身の研究が国際的なレベルで認められた証となり、研究者としての大きな実績になります。
学会参加の大きな目的の一つである人脈形成(ネットワーキング)においても、その対象と広がりが異なります。国内学会では、日本国内の同じ分野の研究者と集中的に交流できます。これにより、国内の共同研究パートナーを見つけたり、将来の就職先や進学先に関する情報を得たりと、国内でのキャリア形成に繋がる密な関係を築きやすいという利点があります。
国際学会では、ネットワーキングの輪が世界中に広がります。普段は論文でしか名前を知らないような海外の著名な研究者と直接話せる機会や、異なる国の若手研究者と交流する機会があります。こうした国際的な人脈は、将来の海外留学や国際的な共同研究プロジェクトへの参加など、グローバルなキャリアを切り拓くための貴重な財産となるでしょう。
参加を通して得られる経験や知識の質も異なります。国内学会では、日本の研究トレンドや、国内特有の課題に焦点を当てた発表が多く、自身の研究を日本の文脈の中で深く位置づけ、理解を深めることができます。国内の先行研究を網羅的に把握する上でも非常に有益です。
国際学会では、世界中の研究者が集まるため、その分野における最先端の研究動向や世界的な潮流を肌で感じることができます。まだ日本語では論文になっていないような最新の技術や理論に触れる機会も豊富です。グローバルな視点から自身の研究を見つめ直すことで、研究の方向性を修正したり、新たな研究テーマを発見したりするきっかけにもなります。
学会での発表経験は、研究者としてのキャリアにも影響を与えます。国内学会での発表は、修士論文や博士論文の研究を進める上でのマイルストーンとなり、研究遂行能力を示す実績となります。また、国内での就職活動、特に研究職を目指す場合には、学会発表の経験が評価されることが多くあります。
国際学会、特に著名な学会での発表経験は、グローバルなキャリアを目指す上で非常に強力な武器となります。自身の研究が国際水準であることを客観的に示す証拠となり、海外の大学や研究機関でのポスドク(博士研究員)のポジションを得る際や、国際的な学術誌への論文投稿、さらには科学研究費などの助成金を獲得する上でも有利に働くことが期待できます。
ここまでの違いを踏まえた上で、国内学会に参加することのメリットとデメリットを、参加者の状況に合わせて整理してみましょう。特に、初めて学会に参加する方にとっては重要なポイントとなります。
国内学会の最大のメリットは、心理的・金銭的なハードルの低さにあります。使用言語が日本語であるため、英語に自信がない方でも研究内容の議論に集中でき、質疑応答もスムーズに行えます。これは、初めて学会発表を経験する学生や若手研究者にとって、発表の場に慣れるための絶好の機会となるでしょう。また、参加費用や旅費も比較的安価で済むため、参加の決断をしやすい点も大きな魅力です。
さらに、参加者が国内の研究者に限定されるからこそ、特定の分野のコミュニティ内で顔見知りになりやすく、密な人間関係を築くことができます。指導教員の知り合いや、同じ大学の先輩など、後のキャリアに繋がる国内の人脈を効率的に形成できる場でもあります。
一方で、国内学会にはデメリットも存在します。最も大きな点は、得られる知見や交流の範囲が国内に限定されがちであることです。参加者が日本人中心であるため、議論の視点や研究のアプローチが同質的になりやすく、海外の研究者が持つような多様な視点に触れる機会は少なくなります。世界の最先端の研究動向から少し遅れてしまう可能性も否定できません。
また、国内学会での発表は、それ自体が国際的な評価に直結することは稀です。将来的に海外での研究活動や、グローバルなキャリアを視野に入れている場合、国内学会での経験だけではアピールポイントとして弱い側面があることも理解しておく必要があります。
次に、国際学会に参加する場合のメリットとデメリットを見ていきましょう。国内学会とは対照的な特徴が多く、特にキャリアアップを目指す研究者にとっては大きな意味を持ちます。
国際学会に参加する最大のメリットは、世界レベルの研究に直接触れ、グローバルなキャリアへの扉を開ける点にあります。世界中から第一線の研究者が集まるため、学術誌に掲載される前の最新の研究成果や、分野の未来を左右するような潮流を肌で感じることができます。多様な背景を持つ研究者との議論は、国内では得られないような新しい視点やインスピレーションを与えてくれるでしょう。
さらに、海外の研究者と直接的なコネクションを築けることも大きな魅力です。ここで築いた人脈が、将来の国際共同研究や海外の大学・研究機関への留学、就職といった具体的なキャリアパスに繋がる可能性も十分にあります。権威ある国際学会での発表経験は、自身の研究が世界水準であることを示す強力な証明となり、研究者としての評価を大きく高めます。
一方で、国際学会への参加には乗り越えるべき高いハードルが存在します。最も大きいのは、やはり言語の壁です。発表や質疑応答をすべて英語で行うためには、専門内容を深く理解しているだけでなく、それを流暢な英語で表現し、議論する能力が不可欠です。準備が不十分な場合、伝えたいことが十分に伝わらなかったり、質疑応答で立ち往生してしまったりする可能性があります。
また、金銭的な負担も大きなデメリットです。海外で開催されることが多いため、高額な参加費に加えて渡航費や滞在費が必要となり、総費用は数十万円に及ぶことも少なくありません。潤沢な研究費がない学生や若手研究者にとっては、参加したくてもできないという状況も起こり得るのが現実です。
本記事では、国内学会と国際学会の違いについて、言語や費用、参加者の多様性といった様々な観点から詳しく解説しました。
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